慢性疾患専門外来

慢性疾患専門外来

ガイドラインに基づく最新の診断と治療

当院の呼吸器専門外来では、日本呼吸器学会等の最新ガイドラインに基づき、非結核性抗酸菌症(NTM)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎の専門的な診断と治療を行っています。
このページでは、それぞれの疾患の診断基準と治療方針について詳しく解説します。

非結核性抗酸菌症(NTM)の診断と治療

NTM(非結核性抗酸菌症)とは?

NTMは、水や土などの自然環境にいる「非結核性抗酸菌」という菌が肺に感染して起こる病気です。
結核の親戚のような菌ですが、人から人へはうつりません。

抗酸菌(こうさんきん)の分類
抗酸菌
(菌の大きなグループ)
結核菌
(人から人にうつる)
非結核性抗酸菌(NTM)
(人から人にはうつらない)
↓ さらに分類 ↓
MAC(マック)菌
以下の2つの菌の総称です:
・M. avium(アビウム)
・M. intracellulare(イントラセルラーレ)
日本人患者の約9割を占めます
M. kansasii(カンサシ)菌
MAC菌の次に多い
M. abscessus(アブセッサス)菌
薬が効きにくく治療が難しい
日常生活でのNTM感染イメージ

診断の流れと基準

「画像(CTなど)での異常」と「菌の証明」の2つが揃って初めて診断が確定します。

肺非結核性抗酸菌症の診断基準(両方を満たす必要があります)
1. 臨床的基準
(身体・画像所見)
  • 胸部X線や胸部CTで、特徴的な影(結節性陰影や気管支拡張など)がある
  • 他の病気(肺結核や肺がんなど)ではない
2. 細菌学的基準
(菌の証明)
以下のいずれかを満たすこと:
  • 喀痰(かくたん)の培養検査で 2回以上 同じNTMが検出される
  • 気管支鏡検査(気管支洗浄液など)で 1回以上 NTMが検出される
  • 肺の組織検査(生検)で、特徴的な変化とNTMが確認される

痰が出ない・出にくい方へ(暫定的診断基準)

痰が出ない方でも、「血液検査(抗GPL-core IgA抗体 = 抗MAC抗体)」が陽性、または「胃液検査」で菌が検出されれば、暫定的に診断を進め、早期に治療を開始できる場合があります。

! 喀痰(かくたん)の正しい採取方法

NTM症の診断には、質の良い痰を検査することが非常に重要です。また、NTM菌は発育が遅いため、喀痰培養の結果が出るまでには最長で6週間ほど時間がかかります。

  • できるだけ早朝や起床時の痰を容器に入れてください。
  • 採る前にうがいをして口腔内をきれいに保ってください。
    ※口の中の雑菌が混ざるのを防ぎ、できるだけ気道(肺の奥)からの痰を採るためです。
  • 採った痰は当日の15時までに当院の受付へお渡しください。(受け取りは月〜土曜の15時までです)
  • 15時以降に採れた場合や、すぐに持参できない場合は、冷蔵庫で保管し、翌日持参してください。
  • 痰の受け取りと同時に、検査のお会計が発生いたします。

菌種による治療の違い

NTM症は、原因となる「菌の種類」によって使う薬や治療期間が全く異なります。

最も多い MAC(マック)症の治療

3種類の飲み薬(抗菌薬)を長期間飲み続けるのが基本です。

  • 薬の名前:クラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール
    ※近年はリファンピシンを使わない「2剤」での治療や、クラリスロマイシンの代わりに「アジスロマイシン」を使用することもあります。
  • 治療期間:喀痰から菌が消えてから最低1年間(合計で1〜2年以上の長期間かかります)
  • 主な副作用:胃腸障害(吐き気など)、肝機能障害、視力障害(エタンブトールによる)など
  • 毎日服用するのではなく、副作用を減らすために「週に3日だけ飲む」方法(間欠投与)にすることもあります。
  • 飲み薬だけでは治りにくい重症例には、最新の吸入薬「アリケイス(ALIS)」を追加します。
2番目に多い M. kansasii(カンサシ)症の治療

お薬が非常によく効き、治療成績が良いタイプです。

  • 薬の名前:リファンピシンを中心とした複数の飲み薬(イソニアジド、エタンブトールなど)
  • 治療期間:喀痰から菌が消えてから最低1年間
  • 主な副作用:肝機能障害、末梢神経障害(しびれ)、視力障害など
難治性 M. abscessus(アブセッサス)症の治療

一般的なお薬が効きにくく、治療が難しいタイプです。

  • 薬の名前:アミカシン、イミペネム等の点滴薬と、クラリスロマイシン等の飲み薬
  • 治療期間:数ヶ月の点滴治療(強化期間)の後、飲み薬主体の治療(維持期間)を長期に行います
  • 主な副作用:聴力障害、腎機能障害(点滴薬による)など
  • お薬への「感受性(効きやすさ)」を細かく調べた上で、最適な薬を組み合わせます。

【参考文献】

  • 日本結核・非結核性抗酸菌症学会, 日本呼吸器学会. 肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針―2024年改訂. 結核 第99巻 第7号: 267-270, 2024.
  • 日本結核・非結核性抗酸菌症学会, 日本呼吸器学会. 成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2023年改訂-. 結核 第98巻 第5号: 1-12, 2023.

COPD(慢性閉塞性肺疾患)の診断と治療

COPDは長年の喫煙などを原因として肺が破壊される疾患です。早期からの適切な介入により、進行を遅らせ、生活の質(QOL)を保つことが治療の最大の目標となります。

COPD・慢性気管支炎・肺気腫の違いとは?

以前は別々の病気と考えられていた「慢性気管支炎」と「肺気腫」ですが、現在ではこれらをまとめて「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」と呼んでいます。患者様によって、どちらの特徴が強く出ているか(病型)が異なります。

気道病変優位型
(従来の「慢性気管支炎」)

  • 主な症状:長引く咳(せき)や、痰(たん)が特徴です。
  • 何が起きているか:空気の通り道(気管支)が慢性的に炎症を起こし、分厚く狭くなっています。

気腫病変優位型
(従来の「肺気腫」)

  • 主な症状:動いた時の息切れ(労作時呼吸困難)が特徴です。
  • 何が起きているか:酸素を取り込む肺の奥の袋(肺胞)がタバコの煙などで破壊され、空気がうまく吐き出せなくなっています。

※実際には、これら2つの特徴が混ざり合っている(混合型)患者様も多くいらっしゃいます。

COPDの病型

診断方法の違い

COPDの診断と、ご自身のタイプ(病型)を見極めるためには、以下の2つの検査の組み合わせが必須です。

検査名 わかること・目的
呼吸機能検査
(スパイロメトリー)
息を思い切り吸って吐き出す検査です。
気管支拡張薬を吸った後でも、「1秒間に吐き出せる空気の量(1秒率)が70%未満」であれば、空気の通り道が狭くなっていると判断され、COPDの診断が確定します。
胸部CT検査 肺の断面を細かく撮影します。
スパイロメトリーでは分からない「肺気腫(肺胞の破壊)」の広がりや、気管支の壁が厚くなっていないかを直接目で見て確認し、前述の「病型」を判定します。また、肺がんなどの別の病気が隠れていないかの確認にも必須です。
COPDの病期分類

治療の要点

禁煙がすべての治療の基本です。その上で、気管支を広げる吸入薬を中心に治療を組み立てます。

  • 基本の吸入療法:
    長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)を使用し、症状が強い場合はLAMA/LABA配合薬へのステップアップを行います。
  • 増悪を繰り返す場合:
    喘息の合併(ACO:喘息とCOPDのオーバーラップ)が疑われる場合や、血液中の好酸球数が多い場合は、吸入ステロイド薬(ICS)の追加を検討します。
  • 最新の治療法:
    適切な吸入療法を行っても増悪を繰り返す特定の患者様には、生物学的製剤(デュピルマブ等)の導入も検討されます。
COPDの管理目標 COPDの重症度に応じた管理 COPD管理のアルゴリズム

【参考文献】

  • 日本呼吸器学会 COPDガイドライン第7版作成委員会. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第7版 2026.

間質性肺炎の診断と治療

間質性肺炎とは

肺は「肺胞(はいほう)」という小さな袋が無数に集まってできており、ここで酸素を取り込みます。一般的な肺炎(細菌性肺炎など)はこの袋の中で炎症が起きるのに対し、間質性肺炎は袋の壁(間質)に炎症や損傷が起き、壁が厚く硬くなっていく(線維化)病気です。肺が硬くなることで十分に膨らまなくなり、息苦しさや空咳が続きます。

間質性肺炎と一口に言っても、原因が特定できるもの(膠原病、お薬、環境など)から、原因が不明なもの(特発性)まで多数の種類が存在します。

間質性肺炎の分類

進行速度の違いと特発性肺線維症(IPF)の予後

間質性肺炎は上記の図のように多岐に分類されますが、その進行速度は疾患や患者様によってばらばらです。数年単位でゆっくり進行する方もいれば、数ヶ月で急速に悪化する方もいます。

その中でも、進行する間質性肺炎の代表格である「特発性肺線維症(IPF)」の予後は非常に悪いことが知られています。IPFの5年生存率は約30%程度とされ、これは膵臓がんや肺がんに次いで低い生存率です。

IPFの生存率

治療方針と抗線維化薬による早期介入の重要性

治療は間質性肺炎の種類(原因)によって異なりますが、特発性(原因不明)の場合、多くは現代の医療技術でも「元の健康な肺に戻す(治癒)」ことはできません。

しかし、IPFや徐々に進行する間質性肺炎に対しては、抗線維化薬(ピルフェニドンやニンテダニブ等)を用いることで、肺が硬くなる進行スピードを緩やかにし、急性増悪(急激な悪化)の発生率を下げる効果が示されています。さらに、抗線維化薬による治療は死亡リスクを3割減少させるという報告もあります(Eur Respir J. 2020 Aug 13;56(2):1902279)。

また、治療介入のタイミングについては、FVC(努力性肺活量)やDLco(肺拡散能力)が十分保たれている早期段階であるほど、生存期間が長くなることがデータで示されています。

GAPスコアと生存率

早期からの積極的な治療介入が推奨されます

治療適応がある患者様(IPFまたは進行する間質性肺炎の所見がある場合)は、様子を見るのではなく、早期に抗線維化薬などによる治療介入を積極的に行うべきだと考えられます。当院では正確な診断と重症度評価を行い、最適なタイミングでの治療をご提案いたします。

【参考文献】

  • 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き 2022(改訂第4版). 南江堂, 2022.
  • Dempsey TM, et al. Eur Respir J. 2020 Aug 13;56(2):1902279.