【専門解説】気管支喘息の最新の診療戦略とガイドライン

「症状のコントロール」から「臨床的寛解(clinical remission)」を目指す時代へ

1. 喘息の最新の診療概念:「臨床的寛解」

気管支喘息の診療は近年、「症状をコントロールし、増悪を防ぐ」という従来の目標から、より高い到達点である「臨床的寛解(clinical remission)」を目指す時代へとパラダイムシフトが起きています。

臨床的寛解の4つの要件
以下の4項目がすべて「1年間維持」された状態と定義されます。
  • 1. 経口ステロイド薬(OCS)の使用なし
  • 2. 症状がコントロールされている(ACTスコア23点以上など)
  • 3. 増悪なし(全身性ステロイド薬を要する増悪がない)
  • 4. 呼吸機能の最適化(正常化、または正常化が困難な場合は安定化)

患者ごとに「改善可能な徴候(treatable traits)」を特定し、最短でこの寛解状態に近づける治療戦略が求められています。

また、咳喘息においては、治療中止後1年間再発のない状態を「寛解」と表現し、若年者や気道反応性が低い例で得られやすい傾向があることが示されています(咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2026より)。

2. 最新の診断フローと評価

喘息には絶対的なゴールドスタンダードとなる診断基準が存在しないため、ガイドラインに基づく包括的な評価が必要です。本邦では主に2つの診断アルゴリズムが活用されます。

診断アルゴリズム(JGL2024 / PGAM2024 / COPDガイドライン2026)
  • JGL2024: 生理学的検査(気道可逆性、PEF日内変動、気道過敏性)と、2型炎症のバイオマーカー(FeNO、末梢血好酸球数など)を重視して確定診断に導きます。
  • PGAM2024: 検査機器が十分でない実地臨床を想定し、中用量以上のICS/LABAを用いた「治療的診断」と、その効果の「再現性」の確認を重視することで、過剰診断を防ぐアプローチをとっています。
  • COPDガイドライン2026: 喘息とCOPDの鑑別や合併(ACO)を念頭に、①発作性の呼吸困難・喘鳴の反復、②変動性・可逆性の気流制限、③気道過敏性の亢進、④気道炎症(タイプ2炎症)、⑤アトピー素因、⑥他疾患の除外を目安とし、診断的治療を行う流れが示されています。

表・図: 喘息診断の目安 / 喘息診断のアルゴリズム

喘息診断の目安 / 喘息診断のアルゴリズム

出典: 日本呼吸器学会編『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第7版 2026』

※図中の注釈(JGL2024に基づく詳細)

  • *1 喘息に典型的な症状
    喘鳴、息切れ、咳、胸部絞扼感の複数の組み合わせが変動をもって出現する。夜間や早朝に増悪する傾向がある。症状が感冒、運動、アレルゲン曝露、天候の変化、笑い、大気汚染、強い臭いなどで誘発される。
  • *2 喘息を疑う問診項目
    症状の初発時期、過去の治療歴と反応。既往歴(アレルギー性鼻炎、薬剤・食物アレルギー)。生活歴(喫煙、常用薬、住環境、ペット)。職歴と職場環境(勤務と症状の関連)。家族歴(アトピー素因、喘息)。
  • *3 他疾患の除外
    上気道疾患(喉頭炎等)、中枢気道疾患(気道異物、腫瘍等)、気管支〜肺胞領域疾患(COPD等)、循環器疾患(心不全、肺塞栓等)、薬剤(ACE阻害薬)、その他(気胸、心因性咳嗽等)。
  • *4 生理学的検査の確認
    経過中に気道可逆性、PEFの日内変動>20%、気道過敏性亢進のいずれかを確認すること。
  • *5 アレルギー疾患の合併
    アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、鼻副鼻腔炎の合併。
  • *6 治療的診断の評価
    治療への反応性を評価し、乏しい場合は診断を見直すこと。

(出典:日本アレルギー学会『喘息予防・管理ガイドライン 2024』)

新たな評価指標:SADと粘液栓

近年、オシロメトリー(モストグラフ)による「末梢気道機能障害(small airway dysfunction: SAD)」の評価や、胸部CTによる「気道粘液栓(mucus plug)」の評価が、重要な treatable traits として注目されています。特に粘液栓は、安定期の重症喘息患者の約7割に認められ、画像診断による可視化が推奨されています。

図: 粘液栓スコア(Mucus Plug Score)の算出方法

粘液栓スコアの算出方法

出典: 日本アレルギー学会編『喘息予防・管理ガイドライン 2024 (JGL2024)』

3. 吸入療法(基本治療)の最新動向と最適化

吸入療法はICS(吸入ステロイド薬)を基本とし、治療ステップに応じてLABAやLAMAを追加します。近年では、1つのデバイスで完結する SITT(single-inhaler triple therapy) が使用可能となり、導入のハードルが大きく下がりました。

  • 喘息性咳嗽の初期治療
    喘息性咳嗽の治療導入にあたっては、抗炎症効果と気管支拡張効果を併せ持ち、全身性副作用の懸念が少ない「中用量ICS/LABA」が基本初期治療として推奨されています。
  • トリプル吸入療法(SITT)とACOへの適応
    1つのデバイスで完結するSITT(テリルジー®、エナジア®、ビレーズトリ®など)が広く普及しています。特に喘息とCOPDが合併する「ACO」の中等症〜最重症持続型に対しては、このSITT(ICS+LAMA+LABA)が強く推奨されています。
  • 吸入デバイスと手技の最適化
    DPI(ドライパウダー)やpMDI(加圧噴霧式)など、患者の吸気流量に合わせたデバイス選択が必須です。最大吸気位での数秒間の息止めが治療成績を大きく左右します。

表: ACOのタイプに応じた薬物療法

ACOの薬物療法

出典: 日本呼吸器学会編『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第7版 2026』

図: 吸入デバイスの選択フローチャート

吸入デバイスの選択フローチャート

出典: 日本アレルギー学会編『喘息予防・管理ガイドライン 2024 (JGL2024)』

4. 生物学的製剤(BIO)を用いた治療の最前線

高用量ICSを含む治療でもコントロール不良な重症・難治性喘息には、病態の根源である炎症カスケードを標的とする生物学的製剤が考慮されます。2型炎症バイオマーカーや「併存疾患」を総合的に評価して選択します。また、喘息性咳嗽に対してもメポリズマブやデュピルマブなどによる咳頻度の減少効果が報告されており、小児の重症喘息においてもIL-13阻害薬(デュピルマブ等)の適用が拡大しています。

一般名(商品名) 標的分子 主な適応と特徴
オマリズマブ
(ゾレア®)
抗IgE抗体 通年性吸入アレルゲンに感作されたアトピー型重症喘息に適応。季節性アレルギー性鼻炎や特発性慢性蕁麻疹の合併例に有効。
メポリズマブ
(ヌーカラ®)
抗IL-5抗体 好酸球性炎症優位型に適応。EGPAや鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の合併例で考慮される。
ベンラリズマブ
(ファセンラ®)
抗IL-5受容体α鎖抗体 IL-5受容体に結合し好酸球を直接除去。著明な好酸球高値や経口ステロイド依存例に有効。
デュピルマブ
(デュピクセント®)
抗IL-4/13受容体抗体 呼気NOや好酸球が高値の2型炎症に広く適応。アトピー性皮膚炎や結節性痒疹の合併例にも強い効果を発揮。
テゼペルマブ
(テゼスパイア®)
抗TSLP抗体 炎症カスケードの最上流を阻害。2型炎症所見に乏しい症例や混合病態でも選択肢となる。

図: 生物学的製剤の選択基準とフローチャート

生物学的製剤の選択基準

出典: 日本アレルギー学会編『喘息予防・管理ガイドライン 2024 (JGL2024)』

主な参考文献・出典(一次情報):
1. 日本アレルギー学会編. 喘息予防・管理ガイドライン 2024 (JGL2024). 協和企画.
2. 日本喘息学会編. 喘息診療実践ガイドライン 2024 (PGAM2024). 協和企画.
3. 日本呼吸器学会編. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第7版 2026.
4. 日本呼吸器学会編. 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2026.
5. 各種生物学的製剤(オマリズマブ, メポリズマブ, ベンラリズマブ, デュピルマブ, テゼペルマブ)の添付文書および適応判定基準.

満屋奨医師

記事監修

満屋 奨(みつや しょう)

呼吸器内科専門医・内科専門医
大阪医科薬科大学 呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科
ラジオロジークリニック扇町 呼吸器専門外来 担当医